カロリー制限やエクササイズをして一度は痩せたにも関わらず数ヶ月後にはリバウンドしてしまったり、少食にも関わらず太ってしまったりという経験をされた方は非常に多いだろう。
私自身、ダイエットを行って一時は痩せて、「今度こそこの痩せた体型を維持しよう」と決意するにも関わらず何度もリバウンドを繰り返してきた。
カロリー制限が長引けば長引くほどエネルギーが足りなくなり、抜け毛、肌や爪の荒れ、倦怠感、集中力の欠如、そして空腹感に悩まされていた。仕事やプライベートでもイライラしやすくなり、日常生活にも支障が出てしまっていた。
あなたも、同じような経験をしてきたのではないだろうか?
「体型を維持している人は本当にこんなことを続けているのか?」と疑問に思った私は、肥満について海外の最新の文献や書籍を読み漁り、どうすれば理想の体型を獲得し、その体型を保ち続けられるようになるのかを徹底的に調べた。
その結果、太る本当の原因を突き止め、ストレスや空腹感、エネルギー不足に悩まされることなく減量に成功し、維持できるようになった – むしろ今までよりはるかに頭が冴え、活動的になった!
ダイエットがうまくいかない本当の理由は、あなたが怠け者だとか意思が弱いだとかではない。本当の理由は、太る原因を誤解していることからくる誤ったダイエット方法にあるからだ。
「より少なく食べて、より多く運動する」という一般的なダイエットは成功しない。だから、もう自らを責める必要はない。
そのことをしっかりと理解して頂くために、これから徹底的に調べて分かった太る本当の原因をお伝えする。
これを読み終えた後、あなたは健康的で魅力的な体験を獲得し維持するために本当に必要な知識を得て、これからのダイエットに向けて大きな希望とモチベーションを得られることをお約束する。
当ページの要約
今まで長い間、カロリーが太る原因とされてきた。そのため栄養学やダイエットの基礎も、このカロリー理論に基づいて発展してきた。しかし驚いたことに、近年、カロリーと肥満の間には、ほとんど因果関係がないことが分かってきた。
それでは何が我々を太らせるのか?
数々の研究によって、その答えは分かっている。インスリンというホルモンだ。
インスリンは、体の細胞や組織に脂肪を蓄えるように指示を出す。つまり血中のインスリン濃度が上がると体は脂肪を蓄える。インスリン濃度は、
・食べるタイミング
・食べものの内容
・ストレスによるコルチゾールというホルモン
によって、大きく上昇する。
一つ目は、食べるタイミングだ。
現代人は三食の間におやつも食べるようになった。起きている間、胃の中には常に何らかの食べ物があり、常にインスリンが高い状態になっている。このようにインスリンが高い状態が続くと、体の各種細胞がインスリン抵抗性を身につけ、さらに多くのインスリンを放出するようになる。つまり、より太るようになる。
二つ目は、食べ物の内容だ。
砂糖はしばしばエンプティーカロリーと言われ、肥満には影響がないと言われる。しかし、砂糖は全ての食べ物の中で、もっとも太る要因の一つだ。特に、果物は健康と考えている方が多いが、果糖は肥満にも糖尿病にも致命的な影響をもたらす。またカロリーゼロの人工甘味料に肥満防止の効果は全くない。これらは、砂糖と同じぐらい悪いものだ。
次に、食パンやパスタなどの精製された炭水化物は、精製の過程で、微量栄養素のほとんどが排除され、ほぼ純粋な糖質になってしまう。つまり、現代社会で我々が主に摂取するような炭水化物は肥満を大きく促進する。また精製された炭水化物は、満腹ホルモンを刺激しないため、容易に過食してしまう。これも肥満の助長に拍車をかけている。
実は、タンパク質も、炭水化物と同じようにインスリン濃度を大きくあげる。しかし、タンパク質は「インクレチン効果」によって満腹感をもたらす。そのため過食になりにくく、結果、炭水化物より太りにくい。また乳製品においても、良好なデータを示す。ただし、低脂肪牛乳などの加工された肉や乳製品は、そうでないものよりも、肥満への影響は大きい。
意外なことに脂質は、インスリン濃度を上げない。良質な油はいくら摂っても構わないどころか、健康にとって非常に有益だ。ただし、サラダ油やキャノーラ油、ごま油のような高度に加工された油は健康にも体重にも悪い。エクストラ・バージン・オリーブオイルや牧草で育てられた牛やラム、放牧豚や鶏の脂質など、できるだけ自然に近い状態の油に限る。なお、マーガリンやショートニングなどのトランス脂肪は全ての食べ物の中で、最も致命的と言えるぐらいに悪い。
三つ目はストレスだ。
現代人は、日々、何かしらの慢性的な精神的ストレスに苛まれている。精神的ストレスの持続は、コルチゾール濃度を慢性的に引き上げる。コルチゾールはインスリンの分泌を促す効果があり、結果、太る。コルチゾールをリセットするには、週に何度か、20分以上の強度の高い運動をすることだ。全力疾走とジョグの繰り返し、限界重量に近いところでのウェイト・トレーニング、心拍も筋肉も追い込む強度の高いボクササイズなどは、コルチゾールをリセットする運動の良い例だ。
結論
今までのカロリー理論を根拠とした、「より少なく食べて、より多く運動する」というダイエット方法は長続きするものではない。なぜなら、我々が太る原因はカロリーではないからだ。本当の原因はインスリンにある。
・食べる時間帯
・食べ物の内容
・數十分の運動によるストレス解消
の3つを心がければ、インスリン濃度は下がり、体が脂肪を燃やすようになる。このやり方だとカロリー制限は不要で、長く苦痛なく続けて、理想の体型や体重をキープし続けられるようになる。
1. カロリー理論の欠陥
現在のダイエットの一般常識はカロリー理論を根拠としている。カロリー理論とは、以下のようなものだ。
- 摂取カロリーが消費カロリーより多いと太る。
- 摂取カロリーが消費カロリーより少ないと 痩せる。
カロリー理論が正しいなら、「より少なく食べて摂取カロリーを減らし、より多く運動して消費カロリーを増やす」ことに何の問題もない。
しかし、もしカロリー理論が欠陥品だとしたら?
その場合、「より少なく食べてより多く運動する」という一般的なダイエット方法は破綻する。そして、残念なことにカロリー理論は欠陥だらけで、とても実用に耐えるものではないのだ。
太る原因はカロリーの摂りすぎではない!
1.1. 数々のカロリー制限及び過剰摂取実験
ここから、カロリー過多が太る原因ではないことを示す有力な実験データをご紹介していく。実験データは以下の2つの基準を満たしているものを選んでいる。
- マウスではなく人に対して行われた実験や研究であること。
- 著名な大学や学者、またはそれと同等の信頼性を持つと考えられる実験や研究であること。
他にも細かい基準はいくつかあるが、オフ・トピックとなるので割愛する。
それでは見ていこう。
1.1.1. ワシントン・カーネギー研究所の実験
現在のカロリー理論は、「我々が基礎代謝で消費する1日当たりカロリーは一定だ」という前提に立っている。
ある人の一日の安静時消費カロリー(基礎代謝)が1,500calだとすると、筋力をつけたり、老化でもしない限り、1ヶ月後、3ヶ月後、1年後も基礎代謝は1,500calのままで一定だということだ。
この理論でいくと1日のカロリー摂取量を1,200calに制限すれば、毎日300calの減量ができる。脂肪1kgは7,200calなので、24日ごと(7,200cal÷300cal=24)に1kg減らせるという計算になる。これに1日500calを燃焼するエクササイズも組み合わせれば、9日ごと(7,200cal÷{300cal+500cal}=9)に1kg減らせる計算になる。
これは以前の私が、そして、きっと多くの方が、何度も失敗を繰り返していた「摂取カロリーを減らし消費カロリーを増やす」ダイエット方法だ。
確かに、一定期間耐え抜いて3-5kgほど減量できるが、1年後には前の体重以上にリバウンドしてしまう。
なぜか?
意思が弱いから?いや、そもそも、人間のホルモンの働きを考えると、カロリー理論に頼ったダイエットは成功するものではないからだ。
それを示す実験に、1919年にワシントン・カーネギー研究所が行ったものがある[1]。
この実験では、被験者の一日あたりのカロリー摂取量を長期間に渡って1400calから2100calに制限した。これは、今日のカロリー制限ダイエットがターゲットとするカロリー摂取水準(通常時の約30%減)だ。
この実験の結果、摂取カロリーの30%の削減は、消費カロリーの30%の減少をもたらしたことが分かった。被験者の、もともとの一日当たり平均消費カロリー約3000calだったのだが、それが約1950calに減少したのだ。
このように摂取カロリーを制限すると消費カロリーもあわせて減少する。
頑張って食べる量を減らして、カロリー制限をしても、あなたが期待しているほどの減量効果を得られないの一つの理由がこれだ。
さらに悪いことに、カロリー制限は人体にとって極めて重大な多くの副作用を伴う。
1.1.2. ミネソタ飢餓実験
カロリー制限によって摂取カロリーが減ると、体は、今後も長期的に少ないカロリー状態である可能性を考えて、自動的に消費カロリーを減らすことによって、エネルギー状況に適応しようとする。
結果、体が正常に機能するために十分なエネルギーが行き渡らなくなり、心身ともに支障をきたす。
厳しいカロリー制限ダイエットに何度もチャレンジしていた頃、私は、爪はガタガタになり、髪は薄くなり、夜眠る時は足のムズムズが止まらなくなりとても眠れないぐらいの状態になっていた。
こんな状態は、とても耐え続けられるものではない。カロリー制限をやめると、これらの症状はすぐに治った。
これは、カロリー制限により、体の調整機能が制限されていたことが原因だった。1944年から1945年にかけてミネソタ大学のアンケル・キーズ博士が行った 有名な実験がある[2]。
この実験では、平均身長178cmで平均体重69.3kgの若くて健康な36人の男子学生が被験者として選ばれた。
実験は以下の3つのフェイズに分けて行われた。
- 1stフェイズ(最初の3ヶ月):
被験者は一日あたり3,200calの食事を与えられた。 - 2ndフェイズ(次の6ヶ月):
食事のカロリーは一日あたり1,570calに減らされた。これは、厳密に24%の体重減少(平均1.1kg/週)を目標としたカロリー摂取量だ。なお食事内容は主にジャガイモ、カブ、パンやマカロニなどの炭水化物で、肉や乳製品はほとんど与えられていない。さらに被験者は、エクササイズとして毎週約35kmのウォーキングを義務付けられた。 - 3rdフェイズ(最後の3ヶ月):
リハビリとしてカロリー摂取量を段階的に元に戻していった。この期間、研究者たちは、被験者の一日あたり消費カロリーが3,009calになるように計算していた。
被験者は、摂取カロリーも消費カロリーも3,000cal前後になるように調整されていた。しかし、突然摂取カロリーを半分の1500cal前後に制限された。
結果は?
被験者たちの消費カロリー(基礎代謝+ウォーキングエクササイズ)も1500cal前後に減った。
さらに、消費カロリーの低下による代謝の不足により、心身への以下のような影響が観察された。
- 安静時代謝率:40%低下
- 筋力:21%低下
- 心拍数:毎分35(平均55)に低下
- 血流量:20%低下
- 体温:平均35.4℃に低下
肉体から力強さが失われ、血圧も下落した。非常に疲れやすくなり常にめまいを覚えるようになった。加えて、髪は薄くなり爪も脆くなった。
また精神面への影響として、
- 食事以外の全てのものへの関心の低下
- 極度の空腹感
- 集中力や責任感の欠如
が認められた。
このような状態は、とても長期間耐えられるものではない!
カロリー制限は体重減少をもたらすちょっとした要素の一つであって、長期的かつ健康的な体重減少・維持を実現するための解決策にはなり得ない。
1.1.3. Dr.イーサン・シムズの過食実験
カロリー理論は、「カロリーの摂りすぎが太る原因だ」とする。
しかし、カロリー制限では一時的にしか減量できないのと同様に、カロリーの摂りすぎは体重増加の一時的な要因でしかない。これについて、バーモント大学のDr. イーサン・シムズが1960年代に実験を行っている[3]。
彼はバーモント州刑務所の受刑者をリクルートした。被験者は一日あたり4,000calの食事を与えられた。この間、刑務作業やエクササイズなどの肉体活動は一定になるように厳しく管理された。
最初、被験者の体重は増加したが、面白いことに、すぐに頭打ちになった。何人かの受刑者は「過食が困難だ」と訴えて実験からリタイアした。
意図的な過食は非常に難しい。力士が「一番辛いことは食べること」と言うことからも推察できるだろう。
過食は長期的なストレスによるホルモンの乱れがあったり、アルコールの作用があったり、神経伝達物質の乱れからくる摂食障害があったりという場合でなければ、辛くて、とても行い続けられるものではないのだ。
さて、それでも実験参加を続けた数人の被験者は、二ヶ月間に渡って、一日あたり10,000calまで摂るように指示され、その通りにした。
最終的に、残った被験者の体重は、計算の約半分の20-25%しか増加なかった。これは一般的なカロリー計算から算出される予想増加量と比べると遥かに劣る水準だ。カロリー理論が正しいなら遥かに大きな体重増加があるはずだ!
なぜ、これほどのカロリーを摂取していたにも関わらず、この程度の体重増加で済んだのか?
それは、被験者は、肉体的活動を厳しく制限されていたにも関わらず、消費カロリーが50%も上昇していたからだ。
実験当初、平均1,800calだった基礎代謝は、実験終了後、平均2,700calに増加していた。被験者の体は、摂取し過ぎたカロリーを少しでも多く燃やすことで調整しようとしていたのだ。実験後、通常の食事に戻った被験者の体重は何の努力も要さずに素早く元の水準に戻った。
このような過食による肥満への影響の研究の全てが同じ結果となっている[4]。
カロリー制限が長期的な体重減少に効果がないのと同じように、カロリー過剰も長期的な体重増加に効果がない。つまりカロリーの摂りすぎは、我々が太る根本的な原因とはならない。
1.1.4. その他の実験
このように摂取カロリーが増加すると、体はより多くのエネルギーを、
- 体温の調整
- 細胞の再生
- 筋肉の修復や増強
- 髪や爪のメンテナンス
などに使えるようになる。
結果、代謝が増加し、心身ともに活性化する。
消費カロリーの増加分の70%は、基礎代謝の増加による体熱産生の増加に使われる[5]。体温は生体機能の維持にとって非常に重要だからだ。
近年の研究で、Dr. フレドリック・ナイストロームは、被験者に6週間ファストフードだけで、それまでの倍のカロリーを摂取させる実験を行った[6]。
結果、被験者達のBMIは平均9%、体脂肪は平均18%上昇した。同時に消費カロリーも12%上昇した。世の中で最も太る食べ物であるファストフードを与えた時でさえ、摂取カロリーの上昇に合わせて、消費カロリーも上昇したのだ。
つまり、摂取カロリーと消費カロリーは相関関係(=どちらかが下がれば一方も下がる。どちらかが上がれば一方も上がる)にあるのだ。
1995年のコロンビア大学のDr.ルドルフも証明している[7]。
この実験では、被験者は、求める体重水準になるように、厳密なカロリー計算のもとで過食または食事制限を行った。最初は、体重を10%増加させるために過食をした。その後、最初の体重に戻るように食事を調整した。被験者達の体重は10%-20%(増加した体重以上!)減少した。
この間、研究チームは消費カロリーを計測していた。
被験者の体重が10%増加すると、一日あたりのカロリー消費はほぼ500cal上昇した。体重が元に戻ると、消費カロリーも元に戻った。体重が10%-20%減少すると消費カロリーはおよそ300cal減少した。
このようにカロリー制限は、それによって体重が減少した分だけ代謝(消費カロリー)を減らしてしまう。
カロリー制限によるダイエットの後、食事を通常に戻すと、すぐにリバウンドしてしまうのは、体が飢餓状態になって、エネルギーの吸収効率が上がったからではない。
基礎代謝(消費カロリー)が落ち込んでいるからなのだ。
1.2. カロリーは太る本当の原因ではない
カロリー制限が痩せるための解決策とはならないように、カロリーの摂りすぎも我々が太る原因にはならない。
それを証明する面白い実験がある。
1.2.1. 一日5,794calのカロリー摂取でも痩せる
イギリスの認定パーソナルトレーナー、サム・フェルサムは、一般的なカロリー制限理論に疑問を持ち、過食実験を行った[8]。
彼は一日あたり5,794calを摂取することを決めた。これは一般男性の推奨カロリーの倍にあたる。
最初の21日間は低炭水化物、高脂質の食事を行った。それぞれの比率は以下の通りだ。
- 炭水化物:10%
- 脂質:53%
- タンパク質:37%
一般的なカロリー理論では、この21日間で、彼の体重は7.3kg増加するはずだった。
しかし、実際の体重増加は1.3kgにとどまった。さらに、興味深いことに彼の腹囲は2.5cmも減少した。体重増加分は除脂肪体重だったのだ。
これだけのカロリーを摂取したにも関わらず、一切太らなかった(除脂肪体重の増加は「太った」とは言えない)。むしろ、腹囲の減少に見られるように、彼の体はより引き締まった。
1.2.2. 同じカロリーで食事内容が異なると激太りする
次に彼は、一般的なアメリカ人の食事構成に近い以下の配分で、一日あたり5,793calのカロリー摂取を21日間続けた[9]。
- 炭水化物:64%
- 脂質:22%
- タンパク質:14%
この際、食事内容は、アメリカで広く利用されている加工食品(パンやマカロニ、ピザなど)をメインにした。
結果、体重は一般的なカロリー理論の計算の通り7.1kg増加した。さらに腹囲は9.14cmも膨らんだ。
同じ人間が、同じカロリー摂取量で、同じ期間過ごしたにも関わらず、食事内容によって結果に大きな違いが生まれたのだ。
もうお分かりだろう、カロリーは太る原因ではないのだ!
1.3. 真実はカロリー理論よりも遥かに複雑だ!
脂質とタンパク質メインのカロリー摂取は肥満をもたらさなかった。しかし炭水化物をメインとしたカロリー摂取は大きな肥満をもたらした。
この結果は、肥満においてカロリーよりも遥かに重要な要素があることを克明に示している。
2. 我々を太らせる真犯人は何か
ここからいよいよ本題に入っていこう。
我々が太る原因の本質は何なのか?
それを議論するために、まずはホメオスタシスについて知っておこう。ホメオスタシスは日本語で「恒常性」と言い、人体の内部環境を一定の状態の保ちつづけようとする傾向のことだ。
人体の多くの機能はホメオスタシスによって管理されている。
例えば、体温はホメオスタシスの例だ。体温が一定より高くなると発汗や血管の拡張によって下げようとし、体温が低い場合は身震いなどによって上げようとする(『恒常性 – Wikipeda』)。
血糖値も免疫も血中カルシウム濃度も、すベてホメオスタシスだ。
これらは、我々が意識的にコントロールすることはできない。ホルモンや神経伝達物質がコントロールしている。同様に、体重も意識的なカロリー制限や運動コントロールで制御されているものではない。
体重はホルモンによって管理されている。
詳しく説明しよう。
2.1. 体重はホルモンが管理している
体が「ホルモンによって定められた体重(ボディ・セット・ウェイト)」を下回ると、ホメオスタシスが働いて、消費エネルギーを減らすことによって元の水準に戻そうとする。
ボディ・セット・ウェイトを上回ると、体は消費エネルギーを増やすことによって元の水準に戻す[10]。
例えば、私のボディ・セット・ウェイトが70kgだとする。
カロリー制限ダイエットによって65kgまで減らした。体重は65kgになったが、ボディ・セット・ウェイトが70kgのままなので、体は元の体重に戻そうとして、
- 空腹ホルモンのグレリンの分泌増進
- 満腹ホルモンのアミリン、ペプチドYY、コレシストキニンの抑制
によって食欲を刺激し食物摂取を促す。
同時に、エネルギーを温存して消費カロリーを減らすために、体温、心拍数、血圧、血流量を減らす。
結果、空腹に加えて寒気や疲労感を覚える。
人間は、ホルモンの作用に長く耐え続けることはできない。やがてホルモンの機能からくる食欲に耐えられなくなり食事を元に戻す。体重も元の水準に戻る。
体重が増加した場合も同様に機能する。
例えば、ボディ・セット・ウェイトが70kgの私の体重が、一時的な過食によって75kgになったとする。体は代謝を上げて消費カロリーを増やし体重を減らそうとする。満腹ホルモンによって食欲を減退させ余分な脂肪を燃やす。
つまり、太るという結果は、何らかの要因によって、ボディ・セット・ウェイトが健康的な水準から大きく乱れている場合に起きる現象なのだ。
従って、ダイエットにおいて本当に大切なのは、一時の体重減少ではなく、ホルモンによって定められているボディ・セット・ウェイトをコントロールすることなのだ。
それでは、何がボディ・セット・ウェイトを決めるのだろうか?
ここが、太る原因を解き明かす最大のカギだ。そして、それが何かが分かれば、どうすればボディ・セット・ウェイトを自分の意識でコントロールできるようになる。
その要因を正確に理解するために、体のエネルギー源と脂肪蓄積のメカニズムについて解説しておこう。
2.2. 脂肪の燃焼と脂肪の蓄積のメカニズム
我々の体の細胞は糖や脂肪をエネルギーとする。
炭水化物が豊富な食事をして血糖値が高いときは、糖分の一種であるグルコースから先に燃やす。そして、後のためにグルコースのいくつかは貯蔵される。
脂肪は、それぞれの細胞の中で別の姿に形を変えて貯蔵される。
- 脂肪細胞は、トリグリセリド(後述)として貯蔵する。
- 筋細胞は、グリコーゲンとして貯蔵する。
- 肝細胞は、グリコーゲンとして貯蔵し、いくつかを脂肪に転換する。
食後、一定の時間が経つと血糖値が下がり、インスリン値が下がる。インスリン値が下がると、細胞内に貯蔵していた脂肪が脂肪組織から放出され、体のエネルギー源となる。
2.2.1. 糖燃焼と脂肪燃焼
血糖値が上がっていて体がグルコースをエネルギーとしている状態をシュガー・バーニング、血糖値が下がっていて脂肪をエネルギーとしている状態をファット・バーニングという。
体は、体内に糖分も脂肪も豊富なときはシュガー・バーニングを優先する。なぜなら高すぎる血糖値は、体にとって有毒だからだ。そのため、体は血液内の糖(グルコース)を燃やしたり、細胞内に取り込むことで、血糖値を下げることを優先する。
ファット・バーニングは、血糖値が下がって、インスリン値も下がった状態で起こる。就寝中、血糖値が下がっている時でも体が機能できるのは、脂肪細胞に溜め込まれた脂肪が、他の細胞にエネルギーを供給しているからだ。
2.2.2. 脂肪の貯蔵と脂肪の燃焼
シュガーバーニングの時は余ったグルコースが脂肪になり、ファットバーニングの時は、その脂肪を燃やす。
それでは次に、脂肪が、どのように蓄積、または燃焼するのか、そのメカニズムを見てみよう。
脂肪は、体の中で以下の2つの形態で存在する。
- 脂肪酸:エネルギーとして燃焼されるときの状態
- トリグリセリド:脂肪細胞内に貯蔵されるときの状態
脂肪酸は、筋細胞や脂肪細胞、肝細胞の中に入ったり外に出てきたりするときの形態だ。ファット・バーニングのときは、厳密には、この脂肪酸が燃やされる。
トリグリセリドは、脂肪細胞の中に取り込まれた3つの脂肪酸とグリセロールという分子がくっついた形態だ。脂肪細胞の中に貯蔵されるときの形態でもある。
脂肪酸は、脂肪細胞を覆う細胞膜を簡単に通り抜けられるが、トリグリセリドはそれには大きすぎる。
シュガー・バーニングは、脂肪細胞の中に脂肪酸を取り込ませ、トリグリセリドの貯蔵を促進する。
一方、ファット・バーニングは、トリグリセリドを脂肪酸に分解して、脂肪細胞から取り出し、エネルギーとして燃焼させる。
2.2.3. 何が脂肪貯蔵と脂肪燃焼を管理しているのか
脂肪は常に貯蔵(シュガー・バーニング)と燃焼(ファット・バーニング)のサイクルを繰り返している。
理想的なサイクルでは、シュガー・バーニングと、ファット・バーニングは釣り合っている。このバランスが片方に偏ったときに、ボディ・セット・ウェイトが増減する。
つまり、シュガー・バーニングの状態が長く続くと太り、ファット・バーニングの状態が続くと痩せるということだ。
それでは、シュガー・バーニングとファット・バーニングのサイクルを決める要因は何なのだろうか?
幸運なことに、その要因はすでに分かっている。
インスリンだ。
2.3. 真犯人はインスリン!
インスリンはすい臓で分泌されるホルモンの一種だ。
ホルモンは体内機能を管理する化学伝達物質で、食欲や血糖値、体内の脂肪量や筋肉のタンパク質量などの水準をコントロールする。
食事をして、血糖値が上昇するとインスリン分泌が刺激される
2.3.1. インスリンのメカニズム
インスリンは以下の二つの酵素に影響を与える。
- LPL:肥満酵素
- HSL:痩せ酵素
2.3.1.1. LPL(肥満酵素)を刺激
LPLは、細胞の細胞膜から突き出ている酵素で、血流から脂肪を取り出し、細胞内に送り込む役割を持つ。
筋細胞のLPLは、脂肪酸を中に取り込み、筋肉のエネルギーとする。脂肪細胞のLPLは、脂肪酸を中に取り込み、脂肪細胞の中でトリグリセリドを貯めこみ、より太らせようとする。
インスリンは、脂肪細胞のLPL(特に腹部の脂肪細胞)を活発にし、筋細胞のLPLを抑制する。そして体内の細胞に、脂肪酸ではなくグルコースをエネルギーとして燃やすように指示する。
つまり、インスリン値が高ければ高いほど、脂肪細胞が脂肪を貯め込んでいく(=太る)。
2.3.1.2. HSL(痩せ酵素)の抑制
HSLは、脂肪細胞内のトリグリセリドが脂肪酸に分解されるのを促進する。こちらの方が、LPLよりも脂肪量の調整において重要度が高い。
HSLがアクティブであればあるほど、より多くの脂肪が放出され燃やされる(=ファット・バーニングが優勢になる)。つまり、HSLは我々の体を痩せさせる方向に働く。
インスリンは、このHSLの働きを抑制する。
このようにインスリンは脂肪細胞が、より多くのトリグリセリドを貯め込むメカニズムを起動させるのだ。
つまり、インスリンがおこなう全てのことは、脂肪貯蔵を増やし、脂肪燃焼を減らす方向に働くのだ。
2.3.2. インスリンと肥満は完全な因果関係にある
インスリンと肥満は、完全な因果関係にある。
因果関係とは、「『肥満』という結果は『インスリン』という原因によって引き起こされる」という関係性を意味する。
ここまででお伝えしたように肥満とカロリーには因果関係はない。肥満とエクササイズの量にも因果関係はない。それらはあくまでも、「カロリー摂取量が多い人は太る傾向にある」「エクササイズが少ない人は太る傾向にある」という相関関係を示すだけだ。
因果関係を解き明かす研究を介入研究。相関関係を見つける研究を疫学的研究という。
ある二つのモノゴトAとBが相関関係にあるということと、AがBと因果原因にあるということは全く別物だ。そのため、我々は、疫学的研究に関しては、特に注意深く観察する必要がある。
話を戻そう。肥満は、ほぼ純粋にインスリンの過剰分泌の結果だ。
このことは数多くの研究によって明らかにされている[11]。
2.3.3. 数々の「インスリン-肥満」実験
2.3.3.1. インスリン投与と体重増加1
例えば、1993年のDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)で、研究者は、インスリンが全く分泌されなくなる病気である一型糖尿病患者の血糖値をコントロールする実験をおこなった[12]。
一つのグループには通常量のインスリンを、別のグループには多量のインスリンを投与した。
このとき患者の体重はどうなったか?
多量のインスリン投与を受けた患者グループの体重は平均4.75kg増加した。これは通常量の投与を受けたグループと比べて遥かに大きな体重増加だった。
2.3.3.2. インスリン投与と体重増加2
血糖値が異常に高い状態になってしまう二型糖尿病へのインスリン投与の研究でも、平均4.0kgの体重増加が確認されている[13]。
インスリンの直接投与だけでなく、インスリン値を上げる作用のある傾向投与の薬によっても体重は増加する。
オックスフォード大学の糖尿病学の教授ラリー・ホールマンをはじめとした研究グループの2007年の研究でも、インスリンを増加させる投薬治療の全てで大きな体重増加が確認されている。もちろんインスリン量が多ければ多いほど体重増加も大きかった[14]。
2.3.3.3. インスリン低下と体重減少
またインスリン値の低下による体重の減少も研究によって証明されている。
α-グルコシダーゼ阻害剤に属する薬は、小腸の酵素をブロックして炭水化物の消化を助ける。その結果、体のグルコース吸収が減り、血中のグルコース濃度が低下する。それに伴って、インスリン値がわずかに低下する[15]。
この薬を摂取している患者は、有意な体重減少が認められた[16]。
SGLT-2阻害剤は、腎臓のグルコースの再吸収をブロックして、血糖値を下げ、食後のインスリン値を35 – 43%低下させる[17]。この薬を服用している患者には長期的な体重減少が認められている[18]。
2.3.3.4. 健康体のインスリン増加と体重増加
もちろん、インスリンによって体重増加の影響を受けるのは糖尿病患者だけではない。
非糖尿病患者が非常に稀に発症するインスリノーマというすい臓腫瘍がある。この腫瘍は多量のインスリンを分泌するため、この腫瘍を発症した患者の72%が体重増加に苦しむ[19]。
例えば2005年の症例では、20歳の女性がインスリノーマと診断された。彼女は、診断されるまでの一年で11.3kgもの体重増加に悩まされていた。しかし腫瘍を除去すると、体重はすぐに元の水準に戻る[20]。
さらに糖尿病と関係のない薬でインスリンを増減させるものも体重増減との因果関係がある[21]。
精神疾患薬のオランザピン服用者は平均2.4kg[22]、神経痛薬のガバペンティン服用者は平均2.2kg[23]、抗精神薬のクエチアピンは平均1.1kg[24]の体重増加を引き起こす。
いずれもインスリン値を上げる作用がある薬だ。
余談だが、一型糖尿病患者の中には「ディアブリミア」といってインスリンの摂取を意図的に避けたがる人々がいる。
インスリンを取らなければ患者の体重は大きく下がるので、細い体型を手に入れたい人にはうってつけというわけだ。
これは極度に危険で決してやってはいけないことだ。だが、この症例が存在するということは、インスリンの低下による体重の減少効果がどれだけ大きいかを表している。
2.3.4. 肥満の支配者はインスリン
いかがだろうか?
肥満のメカニズムは非常に首尾一貫している。
インスリン値を上げる薬は体重増加を引き起こす。インスリン値に影響しない薬は体重に対して影響を与えない。インスリン値を下げる薬は体重減少を引き起こす。
体重と血糖値の間には関連はない。肥満の原因はインスリンにある。
近年の研究では、肥満の人の体重減少の75%はインスリン値の減少によって達成されている。意思の力でもカロリー摂取の影響でもない。外部の助けでもプレッシャーでもない。エクササイズでもない。ただのインスリンだ[25]。
もう真実を隠すことはできない。肥満はインスリンというホルモンが、ほぼ排他的にコントロールしていることは否定のしようがない事実なのだ。
体重はカロリー制限をしたりエクササイズを増やして短期的にコントロールできたとしても、長期的にコントロールできるものではない。現役の時に食事と運動で厳しい体重管理をしていたアスリートが引退後に激太りする例のなんと多いことか!
そう、心拍数や基礎代謝や体温を意識的にコントロールできないのと同じように、肥満は意識でコントロールしきれるものではないのだ。
なぜなら、インスリンというホルモンが原因なのだから!
3. インスリンと肥満サイクル
ここまでで体重は、ホルモンによって管理されていることが分かった。
そしてインスリンというホルモンが肥満の直接的な原因であることが分かった。
しかし、まだ一つ疑問がある。
私たちは誰もがインスリンを分泌する。そして、ある人のインスリン値は常に高いレベルにある(=太っている)。また、ある人のインスリン値は常に低いレベルにある(=痩せている)。
また、インスリンは炭水化物を含む食事をした時には、特に急激に分泌されるのだが、同じ量の炭水化物を摂取しても、より多くのインスリンを分泌する人もいるし、より少なく分泌する人もいる。
この違いはどこから生じるのだろうか?
この問題を解き明かすことが、真の意味で太る原因を突き詰めるということだ。そして安心して欲しい。既に答えは判明している。
肥満サイクルがそれだ。
3.1. 肥満サイクルとは
インスリン値は、
- 高いレベルのインスリン値
- 長期間に渡る高いレベルのインスリン放出
という二つの条件が満たされると際限なく高まっていく。この二つの条件が満たされて、常に高い値のインスリン状態にあることを「肥満サイクル」という。
詳しく説明していこう。
3.1.1. 肥満サイクルとインスリン抵抗性
ホルモンは細胞という錠前にぴったりはまる鍵のようなものだ。錠前と鍵がピッタリ合わさった時に、細胞はホルモンの影響をフルに受けて、ホルモンの指示通りに昨日する。
しかし細胞が、そのホルモンに対する抵抗性を身につけると、ホルモンの影響を受けにくくなる。ちょうど、強い薬を継続的に使用すると、やがて効き目が弱くなってくるようなものだ。
細胞がインスリン抵抗性を身につけると、インスリン(鍵)が細胞の受容体(錠前)にうまくはまらなくなる。鍵がぴったりはまらないので、細胞のドアは中途半端にしか開かない。
結果、細胞の中には少量のグルコース(エネルギー源)しか中に入れなくなる。
このままでは、細胞はエネルギーが足りないので、もっとグルコースを求める。細胞に、より多くのグルコースを届けるために、体はインスリン(鍵)の生産と供給を増やす。
鍵がぴったりはまらずドアが半開きにしかならないのなら、より多くのドアを開けようというワケだ。
通常状態では、10個の鍵(インスリン)を生産するとする。
1つの細胞の中にグルコース分子が2つ入るとすると、10個の鍵で20のグルコース分子を細胞内に送り込むことができる。
しかし細胞にインスリン抵抗性ができると、1個の鍵ではグルコース分子を1つしか細胞内に送り込めなくなる。補うために、身体は20個の鍵を生産するようになる。
つまり、インスリン抵抗性が高くなると、それを補うために、より多くのインスリンが分泌されインスリン値がどんどん高くなっていくのだ。
インスリンは肥満の要因だ。つまり、ボディ・セット・ウェイトの果てしない増加を引き起こす。これがインスリンによって引き起こされる厄介な肥満サイクルだ。
それではダイエットを成功させるには、私たちはインスリン値とインスリン抵抗性のどちらに注目すべきなのだろうか?
答えはインスリン値だ。
インスリンの持続、そして高い水準のインスリン値が、インスリン抵抗性を生む。インスリン抵抗性によって、より多くのインスリンが分泌される。またインスリン抵抗性が高まる。そして肥満サイクルが止まらなくなる。
つまり肥満サイクルの出発点はインスリン抵抗性ではなく、
- 長期間のインスリン分泌(十数時間)
- 高い水準にインスリン値
の2つにあるのだ。
3.1.1.1. インスリン抵抗性の要因1:インスリン値
インスリンの分泌量が多いと、細胞や組織はより強いインスリン抵抗性を身につける。
マヨ医科大学の研究で、健康で非糖尿病の被験者グループに、通常より多い量のインスリンを投与したところ、インスリン抵抗性は上昇した。40時間のインスリンの注入は、被験者のグルコース使用能力を15%引き下げた。つまりインスリン抵抗性が15%上昇したということだ[26]。
また、肥満歴のない前糖尿病状態、糖尿病患者が96時間のインスリンの静脈注射を受けたら、インスリン抵抗性が20%から40%も上昇した[27]。
このように、外部からのインスリンの数十時間の長期投与だけで、健康で若く痩せ型の男性のインスリン抵抗性は大きく上昇し、糖尿病や肥満の予備軍になる。
3.1.1.2. インスリン抵抗性を高める要因2:持続性
インスリンはインスリン抵抗を引き起こす。そしてインスリン抵抗がインスリン値をさらに引き上げる。この肥満サイクルはインスリンが極限になるまで回り続ける。
このサイクルが続けば続くほど症状は悪化する。つまり肥満は時間に依存する。
これが肥満が長く続けば続くほどダイエットが難しくなる理由だ。
例えば、このサイクルに10年間いる人のインスリン抵抗性は非常に高いレベルになる。つまりインスリン値も非常に高いレベルになる。その人は、もはや何を食べたとしても多量のインスリンを分泌する。インスリン値が高いままなので、ボディ・セット・ウェイトも高いままになる。
期間が長ければ長いほどインスリン抵抗性は高くなってしまうのだ[28]。
3.2. 肥満サイクルの出発点はインスリン
さて、半永久的に健康で均整のとれた体型を維持するには、インスリン値を適正な水準でキープすることが重要だということがお分りいただけたと思う。
つまり、ダイエットにおいて重要なのは、「より少なく食べてより多くエクササイズする」のではなく、「よりよくインスリン値の水準をコントロールする」ということだ。
それでは、何がインスリン分泌を刺激するのか?
私たちは、あなたの次のダイエット・チャレンジの成功の鍵を握る真の答えにようやく近づいてきた
あなたが望む真の答えまで、あともう一息だ!
4. インスリン分泌を促す3つの要因
インスリンの分泌を刺激する最大の要素は、
- 食事のタイミング
- 食べ物の内容
- コルチゾール
の3つだ。
普段、我々は、「何を食べるか?」には注意を払うが、「いつ食べるか?」にはほとんど関心を払わない。しかし、両者とも肥満サイクルにおいて同等の重要度を持つ。
そこで、まずは食べるタイミングから見ていこう。
4.1. 不規則な食事タイミング
今よりも肥満率が遥かに低かった1960-70年代、一般的なアメリカ人はオレオクッキーやキットカット、パンやパスタを食べていた。一日三食、精製された炭水化物も砂糖も食べていた[29]。
当時は朝食を8時に食べたとしたら、夕飯は18時に摂っていた。
- 食事期間:10時間(インスリン値が上昇している期間)
- 断食期間:14時間(インスリン値が減少している期間)
つまり、一日のインスリン値の動きは次のようにバランスが取れていたのだ。
・出典:Obesitcy Code: Unlocking the Seceret of Weight Loss, p119.
しかし、2003年には、ほとんどの人は一日5回から6回食べるようになっていた。一日三食と2度か3度の間食だ。
食事にかける平均時間は271分から208分へと30%低下した。食事と断食のバランスは完全に崩れた。
今、我々は一日の時間の大半を、下図のように、インスリン値が高い状態で過ごすようになった。
・出典:Obesitcy Code: Unlocking the Seceret of Weight Loss, p120.
決定的な違いは、一日の中でインスリンが低い時間が極端に少なくなったということだ。そして断食期間のインスリン値も非常に高い水準に止まるようになってしまった。
インスリンが高い時間が続いて、インスリン抵抗性が高まると、断食時のインスリン値も高まる。
今日の我々は、インスリンが高い状態で18時間過ごすようになってしまっている。食べる機会の増大は、高いインシュリン値の持続をもたらした。間食は、また、高いインシュリン値をもたらす。
このような状況では、インスリン抵抗性が高まって当然だ。実のところ、肥満サイクルの進行には、食事回数の増加は、食事内容の変化のほぼ2倍重要だ[30]。
専門家たちは、より多くの回数食べることで代謝率が高まるということを根拠にしていたが、その効果は極端に小さい[31]。より多く食べることは体重減少の妨げにはなっても、助けにはならない[32]。
より多くの回数食べることで空腹がなくなるというが、その証拠を見つけることは不可能だった。近年の研究でも、その考えをサポートするものは一つもない[33]。
また、頻繁に食べると血中グルコース濃度が極端に低くなることから守れるという主張もある。しかし血糖値の低下に悩まされることなく、断食した最長記録は382日だ[34]。
人間の身体のメカニズムは、長い間の食べ物の欠如に適するようにできている。
食事を食べない間は、体は、ファット・バーニングに移行し脂肪を燃やしてエネルギーを得るようになる。断食が長期間に渡ったとしても糖新生によって血糖値は正常なの範囲に収まる。
しかし食事の頻度が増えると、インスリン値が下がる時間がなくなり、体は、常に高いインスリンの状態に留まることになる。これは恐ろしいぐらいに肥満を助長する。
大切なことなので繰り返しお伝えする。
肥満サイクルの進行には、食事回数の増加は、食事内容の変化のほぼ2倍重要だ。
4.2. 不適切な食事内容
太る理由の大きな要素の一つは、食べるタイミングだ。しかし、食べるタイミングを正しても、好きなものを好き放題食べられるというわけではない。
食事内容も非常に重要だ。
ここでは
- どの食べ物がインスリンを刺激し肥満に繋がるのか
- どの食べ物はインスリンを抑制するのか
を詳細に解説していく。
4.2.1. 砂糖
砂糖は疑いようもなく太る食べ物だ。
多くの人は、日々の脂肪の摂取量には関心があるが(本当は良い脂肪は全く太らないし健康に非常に有益だ!)、砂糖の摂取量にはそれほど関心を払わない。
脂肪分ゼロを売りにしているようなお菓子やフルーツも例外ではない。それらは砂糖のかたまりだ。
4.2.1.1. 全ての砂糖が太る
全ての砂糖はインスリン値またはインスリン抵抗性、もしくはその両方を上げる。
砂糖には、主に以下の3つがある。
- グルコース:
体のほぼ全ての細胞のエネルギー源となる。脳はグルコースをエネルギー源として好む。筋肉は素早いエネリグー補給の手段として血液からグルコースを吸収する。赤血球などのいくつかの細胞はグルコースしかエネルギー源として使えない。 - フルクトース(果糖):
主にフルーツに含まれる。フルクトースは肝臓だけで代謝され血液には流れない。脳や筋肉などのほとんどの組織はフルクトースをエネルギーとして使えない。 - スクロース(テーブルシュガー):
料理の調味料として使われる砂糖は、ほぼこのスクロースだ。スクロースはグルコースの分子とフルクトースの分子が組み合わさったものだ。
栄養学ではグルコースとフルクトースは単糖で、スクロースは二糖(ショ糖)というものに分類される。
炭水化物は厳密には「糖質+食物繊維」で多くの糖質を含んでいる。そして、単糖やショ糖を含む炭水化物は、「単純糖質」と呼ばれる。何百何千もの砂糖が繋がっている(=多糖)炭水化物は、「複合糖質」と呼ばれる。
この分類が確立されて以来、長い間、「複合糖質」はゆっくり消化され、「単純糖質」は素早く消化されると考えられてきた。つまり「複合糖質」は血糖値の上昇作用が低く太りにくいとされてきた。
はっきり言って、これは勘違いも甚だしい。
例えば食パンは、複合糖質だが、これは甘い清涼飲料水と同じぐらい素早く血糖値を上昇させる。これについては、炭水化物の項で解説する。
4.2.1.2. 果糖(フルクトース)は致命的
砂糖の中でも果物に含まれるフルクトース(果糖)は、体に良いと考えている方は多い。
これは非常に危険な誤解だ。
確かに、フルクトースは、はっきり確認できるほど、血中グルコース濃度をあげることはない。しかし、肥満や糖尿病とは、グルコース以上に強い関係がある。
フルクトースは、肝臓でのみ代謝される。余分なフルクトースは肝臓で脂肪に変えられる。高い水準のフルクトースは脂肪肝を引き起こす。そして、脂肪肝はインスリン抵抗性を決定的に高める。
このことは1980年の研究で認められている[35]。
この研究では、健康な被験者が一日あたり1,000calのグルコースかフルクトースを投与された。グルコースのグループは、インスリン抵抗性に何の変化もなかった。しかし、フルクトースのグループのインスリン抵抗性は25%増加した – しかも、たったの6日間で!
2009年の研究では、健康な人間がたったの8週間で糖尿病予備軍になってしまうことが確認された[36]。
この研究では、健康な被験者に、日々のカロリー摂取の25%をグルコースかフルクトースから摂取してもらった。フルクトースのグループに血糖値の上昇は見られなかったが、たった8週間で糖尿病予備軍の兆候を示した。
そう、フルクトースの過剰摂取はインスリン抵抗性を促進するのだ。
そのメカニズムを解説しておこう。
インスリンは通常、食事で分泌される。インスリンは、食事によって上昇した血中グルコースのいくつかをエネルギーとして使い、いくつかを脂肪として貯蔵するように調整する。
短期スパンでは、グルコースは肝臓でグリコーゲンとして貯蔵される。しかし肝臓のスペースは限られている。肝臓がいっぱいになると、余分なグルコースは脂肪として貯蔵される。
食後、インスリン値が下がると、このプロセスは逆回転される。
肝臓のグリコーゲンや脂肪はグルコースに再転換され、体のエネルギーとなる。食事時間と断食時間のバランスがうまく取れている時は、グルコースの脂肪への、脂肪のグルコースへの転換が機能して、肝臓の健康は保たれる。
しかし、もし肝臓が常に脂肪で一杯だったらどうなるか?
その時、肝臓にさらに脂肪と糖分を処理させるために、インスリンの分泌量を増やす。結果、体はどんどんインスリン抵抗性を強めていく。高いインスリン抵抗性は、より多くのインスリンの分泌を促す。インスリンが増えると、肝臓は、さらに脂肪と砂糖を貯め込むことを強要される。
最終的に肝臓は脂肪肝になり、体全体のインスリン抵抗性は極限まで高まる。
果糖はGI値は低いが、それで健康に良いと誤解してはいけない。果糖は他の砂糖と同様、肥満を著しく増長するのだ。
4.2.1.3. 砂糖はできる限り避けること
ここで砂糖の悪影響をまとめよう。
まず精製された炭水化物であるグルコースは、インスリン分泌を刺激する。
フルクトースは脂肪肝を引き起こし、インスリン抵抗性を高める。ある程度の期間で考えると、インスリン抵抗性はインスリン値を高め、さらにインスリン抵抗性を高める。
スクロースは、グルコースとフルクトースが50%ずつ組み合わさったものだ。これはインスリン分泌量の増加と、インスリン抵抗性の強化を同時に行う。そのためスクロースは、グルコースの二倍悪い。
つまり、砂糖の余計な摂取は肥満を増長させる。
4.2.2. 人口甘味料
砂糖がダメなら人工甘味料は良いのかというと全くそんなことはない。
残念ながら、人工甘味料をたっぷり使ったカロリーゼロ飲料は肥満を増長させる。それらは決してダイエットの味方ではない。むしろ羊の皮をかぶって我々をたぶらかす厄介な存在だ。
人工甘味料には、例えば以下のようなものがある。
- アスパルテーム
- スクラロース
- アガベ・ネクター
- ステビア
- etc
これらのカロリーゼロの甘味料は、肥満を強力に増長させる。
スクラロースはカロリーも糖質もゼロであるにも関わらず、インスリン値を20%も上昇させる[37]。ステビアとアスパルテームは、血糖値にはほとんど影響を与えないが、スクロース(料理用砂糖)よりも大きくインスリン値を上昇させる[38]。
やはりカロリーと肥満は関係ない!
さらに厄介なことに人工甘味料は食物への渇望も増大させる[39]。グルコースは脳の報酬体系を刺激して満足感を与えるが、スクラロースは満足感を与えないため、摂取すればするほど甘味への渇望を刺激する[40]。
The American Cancer Societyは78,694人の女性を対象にアンケート調査を行った[41]。この調査は体重管理における人工甘味料の有効性を証明しようとしたものだったが結果は真逆だった。1年の人工甘味料の摂取で、平均0.91kgの体重増加が認められた。
それだけではない。
2008年、テキサス大学のDr.シャロン・フォウラーは5,158人の成人を8年に渡って調査した[42]。結果、カロリーゼロ炭酸飲料は肥満のリスクを47%も上昇させることが分かった。
さらに人工甘味料を使ったカロリーゼロの炭酸飲料は、血管疾患のリスクを43%上昇させ[43]、メタボリック症候群のリスクを34%上昇させ[44]、呼吸器疾患のリスクを30%上昇させる[45]。
糖質ゼロ・カロリーゼロの炭酸飲料は、体重管理の効果は全くない。人工甘味料は、砂糖と同じようにインスリン値を上昇させて肥満を引き起こす。
4.2.3. 炭水化物(糖質+食物繊維)
白砂糖や小麦粉などの精製された炭水化物は、最もインスリン値を高める。つまり炭水化物は非常に太る食べ物だ。炭水化物は「糖質+食物繊維」なので、この事実には疑問の余地はない。
しかし、全ての炭水化物が等しく悪い訳ではない。
野菜に含まれる炭水化物は、砂糖や小麦粉よりも遥かに良い。ブロッコリーは沢山食べても太らない。
この違いはどこにあるのか?
4.2.3.1. 精製された炭水化物は大敵
結論からいうと、白いパンやパスタなどの精製された炭水化物はインスリンを急激に上昇させる。
これらの食品は、精製のプロセスによって脂質や食物繊維、タンパク質を削がれ、糖質の純度と密度が高まるからだ。精製された純粋な炭水化物は、ほぼ糖質なので、砂糖と同じように血糖値を飛躍的に上昇させる。血糖値の飛躍的な上昇はインスリン値の急激な上昇をもたらす。
また高度に精製された炭水化物は容易に食べ過ぎてしまう。
例えば、5個のオレンジを絞って作ったジュースを飲み干すのは簡単だが、5個のオレンジを続けて食べるのは、少々骨が折れる。炭水化物も同じことだ。食物繊維や脂質を含んだ状態のナチュラルな穀物を食べるのは、小麦粉で作ったパンやパスタを食べるよりも遥かに骨が折れる。
肥満や糖尿病がこれほど広がっていない時代、人々は精製されていない炭水化物を食べていた。そのため炭水化物の摂りすぎにはならないし、同時に脂質やタンパク質の栄養素も摂ることができていた。現在では、私たちは炭水化物の純度が非常に高い精製された食品をファーストチョイスとしている。
例えば、麦を見てみよう。
麦や米、トウモロコシは人間の歴史の中でもっとも長い付き合いのある食べ物だ。それにも関わらず、特に現在の麦は肥満にとって非常に大きな害悪となってしまっている。しかし、1950年代の人口爆発による世界的な食糧不足の懸念が持ち上がり、その解決策となることを期待されて、麦のバリエーションが大きく広がった。
現在、世界中で栽培されている麦の99%は小麦だ。そして、それに含まれる栄養素は60年前と比べて全く異なるものになっている[46]。小麦は昔ほど多くの栄養素を含んでいないのだ。
製粉機の機能が大幅に上がり、小麦粉から、ビタミンやタンパク質、繊維質や脂質のほとんどが取り除かれ、ほぼ純粋なでんぷん質のみになった。このような小麦粉は小腸で急激なスピードで消化吸収される。結果、血糖値が急激に上昇し、インスリンによる肥満サイクルが始まる。全粒粉の小麦や穀物はヘルシーとされるが、残念ながら大きな違いはない。
余談だが、小麦粉に含まれるでんぷん質の75%はアミロペクチンというものだ。アミロペクチンはAからCの種類がある。
アミロペクチンCは、マメ科の食物に多く含まれる。アミロペクチンCの大半は吸収されない。バナナやジャガイモはアミロペクチンBが豊富に含まれている。もっとも吸収されやすいのはアミロペクチンAで、小麦にはこれが含まれている。
これらのアミロペクチンの効果については、さらなる研究が待たれる。
4.2.3.2. 食物繊維は炭水化物の悪影響を和らげる
さて、炭水化物は「糖質+食物繊維」だ。食物繊維は、肥満から守ってくれる効果がある。そのため、食物繊維の割合が大きい炭水化物ほど、太る効果は少ないということだ。これがパンの炭水化物はダメで、野菜のタンパク質は良い理由の一つだ。
より詳しく見ていこう。
4.2.3.2.1. 食物繊維の種類
食物繊維は消化されない栄養素で、
- セルロース
- ヘミセルロース
- ペクチン
- βグルカン
- フラクタン
など、様々な種類のものがある。
これらは水溶性繊維と不溶性繊維に分けることができる。
豆類や麦の籾殻、アボカドやベリー類は水溶性繊維が豊富だ。全粒粉の穀物や、小麦胚芽、葉物野菜やナッツ類は不溶性繊維が豊富だ。
また発酵性と非発酵性のものがある。
大腸の細菌は食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸酢酸に変換する。これはエネルギー源として利用でき、かつ、肝臓からのグルコースの排出を抑えるなどのホルモン機能がある[47]。基本的に水溶性繊維は、不溶性繊維よりも発酵性が強い。
さらに詳しく見ていこう。
4.2.3.2.2. 食物繊維の効果
食物繊維には、以下のような効果がある。
- 食物の摂取量を減らす。
- 胃や小腸での吸収を遅らせる。
食物繊維が豊富な食べ物は飲み込むまでに噛む回数を多く必要とする。そして食物繊維が豊富な食べ物は、その分だけボリュームが大きくなる。
一方で、繊維質自体は吸収されないので、トータルの炭水化物(糖質)の容量を相対的に低くすることができる。また、水溶性食物繊維は胃の中で水分を吸収しゲル状になるため、胃を満たし、体が満腹感を与えるホルモンの放出を促す。
つまり、食物繊維が豊富な食べ物は、血糖値やインスリン値が上がる速度を落とすことができるのだ[48]。また食物繊維によって、炭水化物の吸収率を下げることができるという研究も出ている[49]。
つまり食物繊維はダイエットにおいて有益だと言える。
北米の先住民族ピマ族と、ネイティブアメリカンとの相関研究では、食物繊維の適切な摂取がBMIを適正に抑えることが確認されている[50][51][52]。
また、10年にわたる観察研究でも、食物繊維をもっとも多く摂取しているグループは、体重増加傾向がもっとも小さいことが確認されている[53]。
さらに、短期間の研究でも、食物繊維は満腹感増進させ、空腹感を減らし、食物摂取量を減らすことが確認されている[54]。
4.2.3.3. 炭水化物は精製されていないものを
食物繊維は、ビタミンやミネラルと違って、消化と吸収を抑える反栄養素だといえる。水溶性繊維は炭水化物の吸収率を下げ、血糖値やインスリン値を抑える効果がある。
二型糖尿病患者を対象に行われた研究で、一つのグループは食物繊維を与えられ、もう一つのグループは食物繊維のない食べ物を与えらえた。食事に含まれる炭水化物の量やカロリーは同じだ。食物繊維を与えられたグループは、血糖値のピークもインスリン値のピークも低かった[55]。
このように食物繊維はある意味で炭水化物に対する解毒剤として機能する。
しかし現代の炭水化物は、精製の過程で、食物繊維を含むほとんどの微量栄養素を除去されている。そして、この一世紀の間で食物繊維の摂取量は大きく低下した。
例えば、パレオダイエットでは一日あたりの食物繊維の摂取量を77g – 120gにすることを推奨しているが、現代のアメリカ人は一日あたり15gしか摂取していない。
はるか昔は、炭水化物は今ほど高度に精製されていなかったので、穀物は多くの食物繊維を含んでいた。そのためインスリン値は一定以下に留められ、肥満も少なかった。しかし、現代の精製された炭水化物はインスリン値を跳ね上げ、人々を肥満に導く。
また肉や魚などのタンパク質や脂質は、満腹ホルモンの分泌を促すが、精製された炭水化物は満腹ホルモンを刺激しない。そのため、パンやパスタなどは簡単に過食に繋がってしまう。
どうしても炭水化物が欲しい場合は、せめてカボチャやサツマイモなど、炭水化物が豊富な野菜から摂るようにしよう。
4.2.4. タンパク質
タンパク質は太らないと考えている方は多いことだろう。そのため脂質の少ない赤身肉や、鶏胸肉などは非常に好まれている。
しかし、実はタンパク質も炭水化物と同じようにインスリン値を上昇させる。低脂肪のタンパク質だからと言って油断して食べ過ぎていては、どっちにせよ太ってしまう。
ただし、そもそもタンパク質は炭水化物と比べて摂りすぎることが難しいので、普通に食べていても摂りすぎにはならない。また血糖値への効果は限定されているため、ファット・バーニングを妨げない。
結果として、タンパク質は炭水化物よりも遥かに肥満への影響が小さい。詳しく解説していこう。
4.2.4.1. タンパク質は炭水化物より遥かに良い
タンパク質は血糖値を上げないため、インスリン値も上げないと考えられがちだ。
しかし、それは誤解だ。
1997年にスーザン・ホルトは、それぞれの食べ物のインスリン上昇値を計測して、II値(”Insulin Index”)を作った。その結果、驚いたことにタンパク質摂取後のインスリン上昇は、炭水化物に勝るとも劣らないものだったことが分かった。
血糖値の上昇はインスリン値の上昇をもたらすが、血糖値以外にも、インスリン値を上げる要素があるのだ。
これは、出典が不明なので、現段階では参考程度に留めて頂きたいのだが、可能性の高い仮説とみなして良いと考えるのでお伝えするが、血糖値は、インスリンを左右する要素のうちの23%に過ぎない。
10%はインクレチン効果だ。
残りは食事タイミング、ストレスホルモンであるコルチゾール、食物繊維や酢酸、良い油などの要素だと考えられている。
ここではインクレチンについて解説していこう。
4.2.4.1.1. タンパク質とインクレチン効果
インクレチンは胃と小腸で生産されるホルモンで、インスリンの分泌を促す効果がある。
人間のインクレチンは2種類ある。
- GLP – 1 (“Glucagon-Like Peptied 1”)
- GIP(“Glucose-dependent Insulinotropic Poypeptide”)
これらはどちらも、ジペプチジルペプターゼ4というホルモンの働きを妨げ、すい臓のインスリン放出を促す。
タンパク質は、このインクレチンを分泌させ、インスリン値を上げる。
ただし、インクレチンはもう一つ重要な機能がある。食べ物が胃から小腸に移るのを遅らせ、グルコースの吸収をゆっくりにして、満腹感をもたらしてくれることだ。
つまり、インクレチンには、
- インスリン分泌を促し太る方向に働く効果
- 満腹感を促し食べ過ぎを防ぐ効果
の2つの相反する効果があるのだ。
思い出して欲しい。
精製された炭水化物や、砂糖、人工甘味料は、それを摂取することでかえって食欲を増進させてしまう。「デザートは別腹」「シメのラーメン」などを思い浮かべて頂くとイメージできるだろう。
タンパク質は、そのような糖質や炭水化物と比べて、満腹感を覚えやすいため、食べ過ぎるリスクが低いというのが、より真実に近い。そのためインスリンの上昇を抑えられるのだ。
4.2.4.1.2. 純度の高いタンパク質は食べ過ぎを防ぐ
なお、タンパク質の種類によってインスリンへの効果は大きく異なる[56]。
乳製品もタンパク質を多く含み、インスリンを刺激する。牛乳は、カゼインとホエイというタンパク質を含む。含有量は前者が80%で後者が20%だ。
実は、ホエイは、全粒パンなどの炭水化物よりも高いインスリン上昇効果がある[57]。ホエイタンパク質の摂取は、GLP-1を298%も引き上げる[58]。
ただし、ホエイは満腹感がもっとも長く続く。
2010年の研究では、卵、七面鳥、ツナ、そしてホエイタンパク質を摂取した時のインスリン値の違いを調べた[59]。
ホエイがもっともインスリン値を高くあげた。しかしホエイは満腹感を長引かせる効果が強い。この4時間後、被験者たちはビュッフェでランチを食べた。ホエイのグループは他のグループより少なく食べた。
ホエイは他のタンパク質よりも、空腹感を和らげ、満腹感を上昇させていたのだ。
このように濃縮された動物性タンパク質は、満腹感が強く長続きして、食欲を抑える傾向にある。
従って、炭水化物は精製された炭水化物よりも、太る効果は遥かに限定的になる。
4.2.4.2. 良いタンパク質と悪いタンパク質
4.2.4.2.1. 畜産肉は太り、放牧肉は健康に良い
1992年521,448人の実験参加者でスタートした5年間に渡るコホート研究では、カロリー摂取量が調整されていたとしても、赤身肉、鶏挽き肉など全ての肉が体重増加と非常に関係があることが分かった[60][61]。
アメリカの研究でも、加工、未加工を問わず赤身肉は体重増加と関係があることが分かった[62]。一日一皿の肉を追加すると、体重は0.45kg増加した。この体重増加は、デザートや甘味料を超えるものだった。
これにはいくつか理由が考えられる。
一つは、牛は本来草食動物なのだが、ほとんどの牛は穀物を飼料として育てられているということだ。これは肉の質に大きな変化を与えていると考えられる[63]。野生動物の肉は、グラスフェドの牛肉に近い。しかしグレインフェドの牛肉は異なる。養殖魚も、天然の魚の肉とは大きく異なる。
二つ目は、私たちは動物の筋肉部分のみを食べているということだ。つまり筋肉部分の食べ過ぎのリスクがある。しかし、動物の内臓肉や血液も人類にとって重要な食料だ。そして、グラスフェドの牛やラムの内臓部分は、良い脂質や微量栄養素が豊富で、タンパク質のインスリンへの効果を和らげる。
しかし、私たちは、そのような脂質を好んで排除してきた。
このような摂取する微量栄養素のアンバランスが、炭水化物よりははるかにマシにせよ、肉を太る食べ物に変えてしまった可能性がある。
4.2.4.2.2. 低脂質乳製品は太り、全乳の乳製品は太らない
乳製品の摂取はインスリン値を大きく引き上げるが、大規模な観察では、体重増加との関係は見られない。
特に、全乳、サワーミルク、チーズ、そしてバターなど低脂肪乳を除く乳製品は良いものだ。10年に渡る観察では、乳製品をもっとも多く摂取するグループは、肥満と二型糖尿病の発症がもっとも少なかった[64]。
その他の大規模研究も同様の結果を示す[65][66]。
The Nurse’s Health Studies と The Health Professionals の追跡調査では、4年間の体重増加の平均は1.5kgだった。年間に直すと375gだ[67]。牛乳とチーズは体重増加を起こさない。ヨーグルトは、発酵させているためか、ほんの少しだけ体重減少が認められる。バターは、わずかに体重増加の傾向がある。
ただし、このようなデータが出ている理由の一つとして、肉から多くのタンパク質を摂ることは容易だが、チーズや牛乳から同じ量のタンパク質を摂取するのは、ホエイプロテインやプロテインバーを利用しない限り、難しいということが考えられる。
つまり、乳製品に含まれるタンパク質はインスリン分泌を促すが、物理的に、肥満を助長するのに十分な量の摂取が難しいのだ。
これは良いことで、乳製品には様々な微量栄養素が含まれているので、それらを効率よく摂取する良い方法といえる。
しかし、低脂肪牛乳などの高度に加工された乳製品は摂取を控えよう。それらは加工の過程で、脂質以外にも様々な栄養素を排除してしまう。結果、タンパク質濃度が上がり、太りやすい食物となる。
全乳の滋養に満ちた食べ物の方が、体重にも健康にもはるかに良い。
4.2.5. 脂質
4.2.5.1. 脂肪はインスリン分泌を促さない
1992年のテキサス大学の研究で、脂肪はインスリンの分泌を促さないことが証明されている(68)。
この実験では、被験者は脂肪を含む点滴を2,000cal与えられた。脂肪を与えられているにも関わらず、被験者のインスリン値は、完全絶食時と同じぐらい下がった。
また脂質の摂りすぎは循環器系疾患や冠状動脈疾患の原因になるということが常識になっているが、驚いたことに、これらの根拠を示すものは何もない!
National Cholesterol Education Programsでさえ一日の摂取カロリーのうちの脂質の比率が高いとしても体重増加とは関係がないことを認めている(69)。高脂質の乳製品摂取の研究を網羅したレビュー研究でも、それらは肥満とは関係がないことを発見した(70)。全乳やサワークリーム、チーズは、低脂肪の乳製品よりもはるかに有益だ(71)。
栄養学の世界的な権威であるハーバード大学のDr. ウォルター・ウィレットはこう書いている。
高脂肪食は、西洋諸国における肥満の流行の説明とはならない。脂質をカットすることによって総カロリー摂取量を減らすことは何の益もないどころか問題を悪化させる。脂質を減らすことは、肥満や健康の増進にとって、重大な悪影響である(72)。
数々の研究で脂質の摂取は健康にとって害がないという結論は首尾一貫している(73)。
また、14年間に渡る80,082人の看護師の追跡調査では、トランス脂肪酸を除く脂肪の摂取は、冠動脈疾患と全く関係がなかった(74)。悪い印象を持たれているコレステロールでさえ本当は安全だ(75)。
ただし、脂肪には、
- 飽和脂肪酸(“saturated fat”)
- 不飽和脂肪酸(“unsaturated fat”)
- トランス脂肪酸(“trans-fat”)
の三種類があり、全ての脂肪が健康や体重に良いわけではない。
飽和脂肪酸 | 肉 卵 etc. | ||
不飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | オメガ9 (オレイン酸) | オリーブオイル サラダ油 キャノーラ油 パーム油 etc. |
多価不飽和脂肪酸 | オメガ6 (リノール酸) | ベニバナ油 ヒマワリ油 ごま油 グレープシードオイル etc. | |
オメガ3 (αリノレン酸) | 亜麻仁油 えごま油 ヘンプシードオイル 魚油 チアシード etc. | ||
トランス脂肪酸 | マーガリン ショートニング (厳密には不飽和脂肪酸が変化したもの) |
詳しく説明していこう。
4.2.5.2. 飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、どれだけ食べても太らない。脂質とともに食事を摂ると、血糖値とインスリン値の上昇を抑えられる(76)。
また飽和脂肪酸が、心臓病などの健康リスクを引き起こすとの考え方が優勢だが、この因果関係を示す証拠は一つもない。
マックスマスター大学のレビュー研究や、オークランド研究所のメタ分析でも飽和脂肪酸と心臓病には因果関係がないことを主張しており(77)(78)、WHOとFAO(食糧農業機関)のレビュー研究ですら、飽和脂肪酸と心臓病の関連は見つけれれなかった(79)。
飽和脂肪酸は動脈を詰まらせることはないし、心臓病も引き起こさない。
飽和脂肪酸は、通常、肉や卵、バターなどから摂取する。これらは基本的に、グレインフェドは避け、グラスフェドの無塩バターを用いることが望ましい。ただし、残念なことに、日本の畜産はほぼグレインフェドのため入手は困難だ。
しかし、質の悪い飽和脂肪酸は、好まれない成分を多く含むので、これらの摂取の際は質にはこだわれるだけこだわろう。
4.2.5.3. 不飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸には、
- 一価不飽和脂肪
- 多価不飽和脂肪
の2つがある。
4.2.5.3.1. 一価不飽和脂肪(オメガ9)
一価不飽和脂肪は、ナッツ類やアボカド、オリーブ、良質なグラスフェドや放牧の肉、卵、バターに含まれている。これらの特徴は常温で固形ということだ。総じて、健康に良いし、肥満とは無関係だ。
ただしグレインフェドの肉の脂は、グラスフェドの肉の脂とは成分が違うという研究も出始めており、今後の解明が望まれる。万全を来すのであれば、これらは区別した方が良いだろう。
また、一価不飽和脂肪酸でも、サラダ油やキャノーラ油などの加工油は後述するトランス脂肪酸に負けず劣らず有害だ。エクストラバージンオリーブオイルや、ココナッツオイルは、身を搾っただけで、自然に近い形なので、はるかに安全だ。
揚げ物や炒め物にサラダ油を使うのは、肥満にも健康にもハイリスクなので止めることをオススメする。またオリーブオイルは火にかけると酸化してしまい、悪い油になってしまう。
料理には良質なバターやココナッツオイルを使おう。
加工された油は使わずに、できるだけ自然に近い状態の油を摂取すると覚えておこう。
4.2.5.3.2. 多価不飽和脂肪(オメガ6とオメガ3)
多価不飽和脂肪は、さらに、
- オメガ6脂肪酸
- オメガ3脂肪酸
に分かれる。
オメガ6脂肪酸は別名リノール酸といい、ヒマワリやベニバナ、ゴマ、トウモロコシなどの油が含まれる。いわゆる植物油だ。これらは、体内で炎症性のエイコサノイドという物質に変換される。
オメガ3脂肪酸は、非炎症性で、クルミや亜麻仁、サーモンやイワシなどの脂肪分が豊富な魚に含まれる。これらは血栓を減らす効果もある。さらに、グリセリドの濃度を下げる効果もあるので、ファットバーニングを促進する。
オメガ6脂肪酸の摂取比率がオメガ3脂肪酸と比べて高くなると、体内で炎症が起こり、心臓疾患のリスクが上がる。
これだけ聞くと、オメガ6脂肪酸は摂取しない方が良いように聞こえるかもしれないが、そうではない。どちらも必須脂肪酸で人体には不可欠だ。大切なことは、オメガ3脂肪酸との比率だ。
人類はもともと、これらの摂取比率は1~3対1で釣り合っていた(80)。しかし、近代では搾油機の発達により、この比率は15対1から30対1の間になってしまった。このようにオメガ6脂肪酸の比率が高いと、心臓病や脳卒中(81)、二型糖尿病(82)、自己免疫疾患(83)のリスクが高まる。
昔の人類は、オメガ6脂肪酸をゴマなど植物を食べることによって摂取していた。しかし現代の人類は、高度な加工によってオメガ6脂肪酸を濃縮した植物油を多く用いる。これが、オメガ6とオメガ3の比率を大きく乱してしまっている。
理想的な比率に戻すには、サラダ油やキャノーラ油を避けるのと同様に、ごま油やベニバナ油などの、高度に加工された油を料理に使うことは控えよう(代わりに良質なバターやギー、ココナッツオイルを使おう)。
そして、サーモンやイワシなどのオメガ3脂肪酸が豊富な魚を積極的に食べて、オメガ3脂肪酸の比率を高めよう(ここでも養殖より天然がはるかに望ましい)。
そうすれば、脂肪の燃焼が促進されるし、数々の疾患リスクを下げることができる。
4.2.5.4. トランス脂肪酸は厳禁!
トランス脂肪酸は否応なく悪い脂質だ。
またトランス脂肪酸の消費が2%増えるだけで、心臓疾患のリスクは23%も跳ね上がる(16,p209)。そのためアメリカのFDA(食品医薬品局)は2018年までに、トランス脂肪酸を全て禁止する処置に踏み切っている。
残念ながら、日本ではまだ規制の動きは出ていない。そのため、クロワッサンやポップコーン、ビスケット、クッキー、ルーなどに多く含まれている。菓子類やパン類、パスタなどの栄養成分表は注意深く確認しよう。
日本の食品の驚くほど多くにトランス脂肪酸が使われている。
トランス脂肪酸は、肥満にも健康にも致命的なので絶対に摂取しないようにしよう。
4.2.5.5. 良い脂質を積極的に摂取する
Dr.R.クロウスは、347,747人の被験者を含む21の研究を詳細に分析した結果、「飽和脂肪酸の摂取がCHDリスクを増加させる証拠は認められない」と結論した(84)。
逆に、低脂質理論の欠陥は、至るところで表面化している。the Women’s Health Initiative Dietary Modification Trialでは、およそ50,000人のランダムに抽出された女性が、低脂質食と平均的な食事を摂った。
7年後、低脂質によってカロリーを制限したグループの体重は減少していなかった。心疾患リスク、癌リスク、循環器疾患リスクも全く低下していなかった(85)。
つまり、今までの常識に反して良い脂質はどれだけ摂っても構わない。もちろん、いくら良い脂質だとしても満腹感を無視して無理やり詰め込むような食べ方はしてはいけない。
4.3. コルチゾール
肥満サイクルを増進させる3つ目の要素はコルチゾールだ。コルチゾールの分泌はグルコースの値を上げる。それは次にインシュリン値を上げる。
コルチゾールはステロイドホルモンの一種で、副腎皮質で生産される。またストレスホルモンとも呼ばれ、闘争と逃走本能を刺激する。
コルチゾールは、もともと、狩猟民族時代の人類が、獣に襲わるなど命の危機に直面するような時に放出されるホルモンだ。コルチゾールが放出されると、その危険な状態に立ち向かうために、体中のグルコースや脂肪が筋肉へ総動員される(86)。
これを「グルコーチコイズ」という。
このとき、成長や消化などの代謝機能が一時的に閉じられ、タンパク質もグルコースに分解される。危険を通り抜けると、コルチゾール値は元の水準に戻る。
このように人間の体は、死が迫るような短い時間の危険から逃れられるようにプログラムされている。
しかし高いコルチゾール値が長期間になるような場合は問題が訪れる。
4.3.1. 慢性的なコルチゾールとインスリン
一見すると、コルチゾールは貯蔵された脂肪やグルコースをエネルギーに変えるホルモンだ。
しかし、長期間の心理的ストレス下では異なる。今の時代、我々は慢性的に非肉体的なストレスを抱えており、それがコルチゾール値を慢性的に上昇させている。
しかし心理的なストレスは、グルコースを燃やす必要のある肉体的活動は伴わない。
そして、精神的ストレスは、肉体的ストレスと異なり、簡単になくなるものではないので、私たちのコルチゾール値は高い水準にとどまる。血液内のコルチゾール値は何ヶ月も高いままになる。
この慢性的なコルチゾールががインシュリンの分泌を増大させる。
コルチゾールを多量に服用した被験者はインシュリン値が36%上昇し(87)、コルチゾール値を上昇させるPrednisoneを服用した被験者はグルコース値が6.5%、インシュリン値が20%増加した(88)。
1998年の研究は、自己認知できるストレスが、血液のコルチゾール値、インシュリン値と強く繋がっていることを示している(89)。
このように、コルチゾール服用とインシュリン反応は比例関係にある(90)。
コルチゾールを増加させる薬である、プレドニゾンの長期服用はインシュリン抵抗性を招き、重度の糖尿病に至らせることもある(91)。
複数の研究がコルチゾールの上昇がインシュリン抵抗性の上昇を招くことを立証している(92)(93)(94)。
コルチゾールの上昇がインシュリンの上昇を招くなら、コルチゾールの減少はその減少を招くはずだ。その効果は移植手術を受けた患者(彼は何年もコルチゾールを上昇させる薬、プレドニゾンを服用していた)の例から分かる。
プレドニゾンが不要になった後、彼のインシュリン値は25%減少し、体重は6.0%減少し、腹囲は7.7%も減少した。
このようにコルチゾールと肥満は因果関係にある。
例えば、クッシング病またはクッシング症候群は長期間に渡って余分なコルチゾールが生産される特徴がある。ある症例研究によると、97%の患者が腹囲が大きくなり、94%が体重が増加する(95)(96)。
患者はどれだけ食事を制限したりエクササイズを増やしたとしても体重を増やす。
もちろん、クッシング病ではない人々がコルチゾールによって体重が増加する証拠もある。スコットランドの北グラスゴーでランダムに選ばれた被験者を調査すると、コルチゾールの値が、BMIと体重増加に強く関連していることがわかった(97)。
高いコルチゾール値は、より重い人々に見られた。特にコルチゾールからくる肥満は腹囲を増大させる。腹部脂肪は、あらゆる体重増加の中でも危険なものだ。
コルチゾールに関する他の研究も、コルチゾールが腹部肥満を招くことを立証している。より高い尿中コルチゾール値の人々の腹囲は高い(98)。
唾液中のコルチゾール値が高い人々のBMIとwaist-to-hip ratioは高い(99)。
身体が長期間コルチゾールにさらされた場合の研究もある。肥満患者と通常体重の人を比べると、前者の頭髪中のコルチゾール値が高いことがわかった(100)。
余分なコルチゾールの分泌を促すあらゆる病気が体重増加を招く。なぜなら、高いコルチゾール値はインシュリンの増加を招き、インシュリンの増加は体重増加を招くからだ。
逆もまた然りだ。
低いコルチゾール値は体重減少を起こす。
アディソン病という病気がある。コルチゾールを生産する副腎がダメージを受けて、コルチゾール値が下落する病気だ。この病気の顕著な特徴は体重減少だ。実に97%の患者が体重減少の目にあっている(101)。
コルチゾールが体重増加を起こすことは否定できない。
コルチゾールはストレス下において分泌が加速される。つまり、多くの人が感覚的に感じている通り、強いストレスは体重を増加させるのだ。ストレスを減らすのは難しいことだが、極めて重要なことだ。
マインドフルネスつまり瞑想やヨガ、マッサージやエクササイズはコルチゾール値を下げ、腹部脂肪を減少させる効果がある(102)。
4.3.1.1. コルチゾールと睡眠
睡眠不足は慢性的ストレスの最大の要因の一つだ。
今日では、私たちの睡眠時間は以前と比べてはるかに少なくなっている。30歳から64歳の人々の30%は睡眠時間が毎日6時間以下になっている(103)。睡眠時間と肥満の関係を示す研究も一貫した結論を出している(104)(105)。
睡眠時間が5時間から6時間の場合、肥満リスクは50%増加する(106)。
睡眠不足は強力なストレス要因でありコルチゾール分泌を促す。そして、高いインシュリン値とインシュリン抵抗性をもたらす。たった一晩の睡眠不足でもコルチゾール値を100%以上増加させる(107)。
次の夜になってもコルチゾールは、まだ37-45%も高い水準にとどまる(108)。
健康な人間の睡眠時間を4時間に制限すると、インシュリン感受性は40%も減少した(109)。それもたった一晩の睡眠不足でだ(110)。
5日間の睡眠制限ではインシュリン分泌は20%増え、インシュリン感受性は25%低下し、コルチゾール値は20%上昇した(111)。他の研究では、睡眠不足は2型糖尿病のリスクを増大することを示している(112)。
食欲を刺激するレプチン、グレリンのリズムも睡眠不足によって狂ってしまう。睡眠不足はレプチン減少、グレリン増加、体重増加と関連している(113)。
睡眠不足は減量の努力による効果を低下させてしまう(114)。
ただし面白いことに、ストレスが少ない状況下では睡眠不足はレプチンを減らさず空腹感を増大させない(115)。つまりコルチゾール値を高めるようなストレス状況にない睡眠不足、例えば、次の朝は楽しみにしていた旅行で早く起きなければいけないなどの場合は問題はない。
4.3.2. コルチゾールを発散する効果的な方法
現代人は、社会生活の中で、何かしらのストレスを抱えながら生きている。それらのストレスは決してなくすことはできない。
そのような状況下でコルチゾールをリセットするために有効なのが、週に数回の強度の高い運動だ。
20分程度の短時間の全力疾走とジョギングのインターバル運動、上げられるか上げられないかの際のウェイトトレーニング、息が大きく切れるぐらいのボクササイズなどのミット打ちなど、全身の筋肉や呼吸器をフル活用するような運動は、コルチゾールを大きく減少させる。
5. 結論:もっと楽に痩せられる
「炭水化物が太る」「赤身肉が太る」「砂糖が太る」などの単純な理論では、複雑な人間の肥満の原因を十分に表すことはできない。
カロリーは食べ物の熱量を比較する画期的な発明だった。しかし、残念なことに、カロリーは太る原因ではないのでダイエットの役には立たない。元々の前提となる理論が間違っていたのだから、カロリー制限ダイエットが失敗するのは当たり前のことだ。
太る原因の本質はインスリンにある。
そのため、低脂質ダイエットも高タンパク質ダイエットも、カロリー制限ダイエットも失敗する。
しかし、現在、パレオダイエットという原始食ダイエットが存在感を増してきている。パレオダイエットは洞窟食ダイエットとも言われ、遥か昔の我々の祖先が食べていたような食事を摂るというものだ。パレオダイエットでは、精製され砂糖などの添加物を施した乳製品、穀物、そして植物油、甘味料、アルコールを排除する。そして、果物、野菜、ナッツ類、シード類、スパイス、ハーブ、肉、魚肉、卵などを食べる。
パレオダイエットは炭水化物、タンパク質、脂質の制限は行わない。代わりに、精製された食べ物を避ける。同じようなダイエット方法に、地中海色ダイエット、ケトジェニックダイエットなど様々なものがある。
これらのダイエット方法は、どれもカロリー制限ダイエットよりはるかに効果的なので、自分ができるものを探してみよう。またこれらに加えて、インスリン濃度を下げる時間を保つための断続的断食や、コルチゾールをリセットするための運動を行うと、より効果的だ。
私自身は、良い油からカロリーの半分以上を摂り、残りの30%ほどを肉や全乳の乳製品などのタンパク質から摂り、後の微量栄養素や炭水化物は野菜から摂っている。また基本的に、一日のうち6時間だけ食べて、18時間は食べない。これだけで空腹感に悩まされることなく、1ヶ月で7kg以上の減量に成功している。
カロリー理論ではなく、インスリン理論に基づいたダイエット方法は、実践も続けることも遥かに簡単だ。
もし、あなたが、以前の私と同じように悩んでいるのなら、この記事をカロリー理論という欠陥だらけの一般論から抜け出して、理想的な体型や体重を手に入れる助けとして欲しい。そうして頂ければ非常に幸いだ。
6. 脚注
6.1. 参考文献
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- 2. WHY WE GET FAT: AND WHAT TO DO ABOUT IT
- 3. GOOD CALORIES BAD CALORIES
- 4. THE BULLETPROOF DIET: LOSE A POUND A DAY
- 5. やせたければ脂肪をたくさんとりなさい
- 6. 世界のエグゼクティブを変えた超一流の食事術
6.2. 出典
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- 2. “Minnesota Starvation Experiment“
- 3. “Ethan Sims and Overfeeding“
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- 7. “Changes in energy expenditure resulting from altered body weight“
- 8. “Why I Didn’t Get Fat From Eating 5,000 Calories A Day Of A high fat diet“
- 9. “Why I Did Get Fat From Eating 5,000 Calories A Day Of A High Carb Diet“
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- 13. “Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes“
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- 107. “Adverse effects of 24 hours of sleep deprivation on cognition and stress hormones“
- 108. ”Sleep loss results in an elevation of cortisol levels next evening, Sleep.”
- 109. ”Sleep loss: a novel risk factor or insulin resistance and Type 2 diabetes”
- 110. ”Effects of sleep deprivation and exercise on glucose tolerance.”
- 111. ”Sub-chronic sleep restriction causes tissue-specific insulin resistance.”
- 112. ”Sleep disturbance and the onset of type 2 diabetes“
- 113. ”Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass index”
- 114. ”Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity”
- 115. ”leptin and hunger levels in young healthy adults after one night of sleep loss.”